【第10回】水耕栽培とLED

水耕栽培とLED

水耕栽培とは、土を使わずに植物を栽培する方法で、水や栄養液を用いて植物を育てます。土壌栽培に比べて管理が容易で、成長速度が速く、病害虫のリスクも低いことが特徴です。栄養液は、水に溶かした肥料やミネラルを含み、植物の根に直接供給されるため、効率的な栄養吸収が可能です。

 

水耕栽培の特徴とメリット

水耕栽培のメリットとして、天候や季節に左右されず、年間を通じて安定した育成が可能である点が挙げられます。また、都市部でもスペースを有効活用できるため、屋内農業やビルの屋上での栽培も実現しています。一方で、初期費用や管理の手間がかかるため、導入にあたってはコストや労力を考慮する必要があります。

また、水耕栽培は、土を使わないため、土壌病害や害虫のリスクが大幅に減少します。栄養液を直接根に供給することで、植物は効率的に養分を吸収し、成長速度が速くなる傾向があります。さらに、水耕栽培は室内や都市部でも行うことができ、スペースを有効に活用できます。たとえば、屋内農業やビルの屋上での栽培が可能です。

水耕栽培におけるLEDライトの重要性

水耕栽培におけるLEDライトは、植物の成長を最適化し、収穫量を向上させる点で極めて重要です。

植物は光合成を通じてエネルギーを生産し成長します。自然光が十分に得られない室内や都市部での水耕栽培では、人工光源が必要となります。ここで、LEDライトが重要な役割を果たします。LEDライトは、光合成に必要な光の波長を精密に調整できるため、植物に最適な光環境を提供します。

水耕栽培の種類

 

水耕栽培の主な種類として、溶液栽培、エアロポニックス、流動栽培、ウィックシステムなどがあります。

溶液栽培

植物の根を直接栄養液に浸す方法です。さらに、静置型と循環型に分けられます。静置型は根が栄養液に常に浸かっており、酸素を供給するために気泡を送り込むことが必要です。循環型は栄養液をポンプで循環させることで、酸素と栄養を効率的に供給します。

 

エアロポニックス

根を空気中に露出させ、定期的に霧状の栄養液を噴霧する方式です。根に酸素を多く供給できるため、植物の成長が速くなります。エネルギーコストが高い点がデメリットです。

 

流動栽培(NFT: Nutrient Film Technique)

栄養液を浅いトレイの上を薄い層で流す方法です。根が酸素と水分を十分に吸収できるため、成長が早いです。ただし、システムの停止や詰まりが発生すると植物が枯れてしまうリスクがあります。

ウィックシステム

植物の根に吸水性のウィック(紐や布)を取り付け、栄養液を自動的に吸い上げる方法です。エネルギーをほとんど使用しないため、手軽に始められるのが特徴です。ただし、大規模な栽培には向きません。

それぞれの方式には独自のメリットと課題があり、栽培する植物の種類や規模に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。

 

水耕栽培に適したLEDライト

水耕栽培においてLEDライトは非常に重要な役割を果たします。植物の成長を最適化し、収穫量を増加させるために適切なライトを選ぶことが不可欠です。以下に、水耕栽培に適したLEDライトについて、特にその選び方と使用法に焦点を当てて詳しく説明します。

適した波長

植物の成長には主に赤色光(約660nm)と青色光(約450nm)が必要です。これらの波長は光合成において重要な役割を果たし、それぞれ以下のような効果があります。

青色光

葉の成長を促進し、植物の全体的な発育に寄与します。特に発芽初期から成長期にかけて必要です。

赤色光

花や果実の形成を促進し、植物の開花や結実に重要です。特に成長後期や開花期に効果的です。

フルスペクトルLEDライト

フルスペクトルLEDライトは、太陽光に近い光スペクトルを提供し、植物の全成長段階に対応します。これにより、植物は自然環境に近い条件で成長できるため、健康な発育と高い収穫量が期待できます。

LEDライトの選び方

光出力(PPFD)

光出力はPPFD(光合成有効光量密度)で測定され、単位はµmol/m²/sです。これは植物に届く光量を示し、高いPPFD値が理想的です。一般的に、300〜600 µmol/m²/sが水耕栽培には適していますが、作物の種類や成長段階によって異なる場合があります。

光スペクトル

前述の通り、赤色光と青色光のバランスが重要です。多くのLEDライトは、このバランスを調整できる機能を持っており、成長段階に応じてスペクトルを変更することが可能です。

調光機能

調光機能があるLEDライトは、光の強度を調整できるため、植物の成長段階や栽培条件に応じて最適な光環境を提供できます。

放熱設計

適切な放熱設計が施されたLEDライトは、熱を効果的に散逸させ、ライトの寿命を延ばすとともに、栽培環境の温度管理を容易にします。アルミニウムヒートシンクやファンが組み込まれているモデルが一般的です。

耐久性と防水性

水耕栽培環境では湿気や水分が多いため、防水設計のLEDライトを選ぶことが重要です。IP65以上の防水規格を持つ製品が推奨されます。

照射範囲

栽培スペースに合わせた照射範囲を持つLEDライトを選ぶことが大切です。大規模な栽培には広範囲をカバーできるライト、小規模な栽培には集中した照射ができるライトが適しています。

LEDライトの配置と使用方法

距離

LEDライトを植物から適切な距離に配置することが重要です。一般的には30〜60cmの距離が推奨されますが、PPFD値や植物の種類に応じて調整が必要です。

照射時間

植物の成長段階に応じた照射時間を設定します。例えば短日で開花する植物では、成長期には16〜18時間の照射が推奨され、開花期には12時間程度が適しています。タイマーを使用して照射時間を自動管理することが便利です。

角度と配置

LEDライトの角度や配置も重要です。均一な光を提供するために、複数のライトを使用する場合は、均等に配置し、植物全体に光が行き渡るようにします。

おすすめのLEDライト

  1. フルスペクトルLEDライト
  2. 調光機能付きLEDライト
  3. 放熱設計に優れたLEDライト

水耕栽培に適したLEDライトを選ぶことは、植物の成長と収穫量を最大化するために不可欠です。エネルギー効率、長寿命、発熱量の低減、スペクトルのカスタマイズなど、多くの利点を持つLEDライトは、現代の水耕栽培において理想的な選択肢です。適切なLEDライトを選び、適切に配置し、使用することで、健康な植物を育て、豊富な収穫を得ることができます。

LEDライトの設置位置と角度、最適な距離と角度

水耕栽培において、LEDライトの設置位置と角度、最適な距離は、植物の健康と成長に直接影響を与えます。以下に、これらの要素について詳しく説明します。

設置位置と角度

位置

LEDライトは植物の上方に設置するのが基本です。これは太陽光が自然に植物に降り注ぐ方向と同じです。植物の上方に設置することで、光が均等に照射され、光合成が効率的に行われます。

角度

LEDライトの角度は、照射範囲を広げるために若干調整が必要なことがあります。複数のライトを使用する場合、それぞれのライトを少し斜めに配置して、光が植物全体に均等に行き渡るようにします。ただし、角度をつけすぎると光が分散してしまい、効率が下がるため注意が必要です。

最適な距離

LEDライトと植物の距離は、光の強度(PPFD値)や植物の種類、成長段階によって異なりますが、一般的なガイドラインは以下の通りです:

発芽期: 40〜60cm

成長期: 30〜50cm

開花期: 20〜40cm

この距離は目安であり、具体的な調整は植物の反応を見ながら行うのが良いでしょう。植物が光を求めて徒長する(茎が細く長くなる)場合は距離を縮め、葉焼けや光のストレスが見られる場合は距離を広げます。

最適な角度

LEDライトの最適な角度は、光の均等な分布を確保するために、水平に設置するのが基本です。ただし、栽培スペースが広い場合や複数のライトを使用する場合は、次のように角度を調整します。

単一のライト

水平に設置し、光が均等に広がるようにします。

複数のライト

中心のライトは水平に設置し、外側のライトは内側に向けて15〜30度の角度で配置します。これにより、光が植物全体に均等に照射され、重なり部分での光強度が高まります。

<注意点>

定期的な調整: 植物の成長に伴い、LEDライトの距離と角度を定期的に調整します。特に成長が早い植物では、週に一度程度の頻度で確認と調整が必要です。

均一な照射: 照射が均一でない場合、植物の成長が不均等になり、一部の植物が光不足になる可能性があります。均一な光分布を確保するために、リクレクターや追加のライトを使用することも検討します。

以上のポイントを守ることで、LEDライトを最適に設置し、植物の健康な成長を促進できます。

植物の成長ステージごとの照射時間の調整方法

植物の成長ステージごとに適切な照射時間を調整することは、健康な成長と高収穫を確保するために重要です。以下に、短日植物を例に、各成長ステージにおけるLEDライトの照射時間の調整方法を説明します。

発芽期(シードリングステージ)

照射時間:

発芽期には、植物が強力なスタートを切るために長い照射時間が必要です。この期間は通常、18〜24時間の連続照射が推奨されます。長時間の光照射は、発芽と初期成長を促進し、健康な苗を育てるのに役立ちます。

<注意点>

光の強度は中程度(PPFD値で200〜400 µmol/m²/s)が理想的です。

24時間の照射が必須ではない場合もあり、18時間の照射と6時間の暗期でも十分です。

成長期(ベジタティブステージ)

照射時間

成長期には、植物が葉や茎を大きく成長させるために必要な光量を確保することが重要です。通常、16〜18時間の照射時間が最適です。この期間に十分な光を提供することで、光合成が最大限に行われ、強健な植物体が形成されます。

<注意点>

光の強度は増加させ、400〜600 µmol/m²/sを目指します。

暗期(6〜8時間)を設けることで、植物の自然な生理サイクルを維持します。

開花期(フラワリングステージ)

照射時間

開花期には、照射時間を短縮して植物に花芽形成を促します。一般的には12時間の照射と12時間の暗期が標準です。これは、自然環境における秋の日照時間に近似しています。

<注意点>

光の強度はさらに増加させ、600〜900 µmol/m²/sが理想的です。

暗期を厳守することが重要で、この間に光漏れがないようにします。光漏れは開花を阻害する可能性があります。

結実期(フルーティングステージ)

照射時間

結実期には開花期と同様に12時間の照射と12時間の暗期が推奨されます。この期間には、植物が果実を成熟させるために十分なエネルギーを得る必要があります。

<注意点>

光の強度は高いまま維持し、900 µmol/m²/s程度が理想的です。

果実の成熟を促進するために、赤色光を多く含むスペクトルを提供します。

照射時間の管理方法

タイマーの使用

タイマーを使用して照射時間を自動的に管理することが推奨されます。これにより、安定した光サイクルを維持し、植物の成長に最適な環境を提供できます。

環境モニタリング

光以外にも温度、湿度、CO₂濃度などの環境要因をモニタリングし、総合的な栽培環境を管理します。

以上のガイドラインに従って、植物の成長ステージごとに適切な照射時間を調整することで、健康な植物を育て、高収穫を実現することができます。

 

 

執筆:BARREL編集部

監修:坂本亘

岡山大学資源植物科学研究所光環境適応研究グループ教授。1990年東京大学大学院農学研究科修了、農学博士。シアノバクテリアの細胞内共生に由来する葉緑体の形成を40年近く追い続け、モデル植物で光合成を研究する葉緑体生物学者。専門は植物生理学。

 

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